不妊治療の流れと費用|妊活のコツは「早めに・夫婦で・計画的に」
この記事の監修医師
小堀 善友先生
獨協医科大学埼玉医療センター リプロダクションセンター副センター長・准教授
日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本性機能学会専門医、日本泌尿器内視鏡学会認定医。
専門分野は男性不妊症・性機能障害・性感染症で、男性不妊症や前立腺肥大症、前立腺癌の治療及び手術に多数携わっているほか、不妊症治療への啓発等にも積極的に取り組んでいる。
不妊治療は一般的に、「タイミング法→人工授精→体外受精→顕微受精」と段階的に行われます。自然に近い方法から高度な治療方法に、徐々にステップアップしていくのです。
ただし検査結果(不妊症の原因)や年齢など、夫婦の状況によっては初めから人工授精や体外受精を勧められる場合もあります。
この記事では、不妊治療のステップと各治療の内容や費用についてご紹介します。不妊治療から妊娠に至るまでの、おおよその流れと費用の目安を把握し、夫婦で治療計画を話し合う際の参考にしてください。
ステップ0:不妊検査
不妊治療の第一歩は、検査を受けることです。
女性は通常、月経周期に合わせてホルモン検査や子宮鏡検査など、複数の検査を1~2ヶ月かけて行います。男性の不妊検査は、精液検査になります。
検査の詳しい内容や費用は次の記事にまとめていますので、併せて参照してみてください。
ステップ1:タイミング法
タイミング法ってどんな方法?
タイミング法は、妊娠しやすいタイミングに合わせてセックスをする方法です。
妊娠しやすい時期は、排卵日の2日前から排卵日までと言われています。そのため、医師が排卵日を予測し、最も妊娠しやすいタイミングを診断します。
排卵日の診断には、基礎体温や超音波検査、ホルモン検査の結果などを参考にします。
超音波検査では、卵巣の様子を観察し、卵胞(卵子が入っている袋)のサイズを測ります。卵胞は、直径20mm程度に成長すると排卵されるため、サイズを測ることで排卵日を推定できるのです。さらに、尿に含まれる排卵ホルモンを検査することで、排卵日をより正確に診断していきます。
そのため、タイミング法を医師の指導によって行う場合は、排卵日の前に複数回の検査通院が必要になります。
タイミング法の対象となる人は?
タイミング法は、不妊検査をして排卵障害や卵管の異常が見つからず、男性も精液検査で基準を満たしているなど、明らかな不妊原因がない場合に、治療のファーストステップとして行われます。
また、夫婦の年齢が比較的若く、不妊期間も短いなど、自然妊娠の可能性があることが条件です。
またタイミング法は、自分で基礎体温を測定、おおよその排卵日を予測することで、自分たちでも行えます。ただし実際の排卵日は前後することも多いため、一定期間試して妊娠しない場合は、医師の検査や指導を受けてみると良いでしょう。
タイミング法にかかる費用は?
タイミング法にかかる費用は、診察料や検査料、投薬料などを合わせて、1回の周期につき数千円から1万円前後が目安です。通院や検査の回数によって費用が前後します。
またタイミング法では、排卵を促すために排卵誘発剤(内服薬や注射)を併用することもあります。その場合、薬の種類によって保険適用外になったり、また薬の処方量によって費用が変わってきます。
ステップ2:人工授精(AIH)
人工授精(AIH)ってどんな方法?
人工授精(AIHとも呼ばれます)は、精液に含まれる質の良い精子のみを取り出して、細いチューブで子宮内に直接精子を送り込む方法です。人工的に、精子が泳ぐ距離を短縮させるのです。
人工授精は、タイミング法と同様、排卵日を予測し妊娠しやすい期間に合わせて行うため、検査のための通院が複数回必要です。男性は人工授精の当日に、自宅またはクリニックで精液を採取します。
人工授精で妊娠できた人の80%は、7回目以内に妊娠しているという統計が出ています。そのため、人工授精を7回しても妊娠に至らない場合は、体外受精などステップアップします。ただし年齢や不妊原因、AMH(卵巣年齢)などにより、もっと早い段階で体外受精に切り替えられることもあります。
人工授精(AIH)の対象となる人は?
人工授精は、次のような場合に選択されます。
□ タイミング法で妊娠に至らなかった場合
□ 精液所見に問題がある場合
□ 性交障害がある場合
人工授精では、精子を直接子宮内に注入することによって、精子の泳ぐ距離を助けます。そのため、精液量が少ない・精子が少ない・精子の運動率が低いなど、精液所見に問題がある場合に有効です。
また、何らかの理由で夫婦間の性交渉ができない場合も、人工授精を行います。
ただし卵管障害などがある場合は、子宮に送り込まれた精子が卵子に到達できない可能性が高いため、人工授精は有効ではありません。
不妊検査を受けた上で、夫婦にとって一番最適な治療方法を選択することが大切です。
人工授精(AIH)にかかる費用は?
人工授精の1回あたりの費用は30,000円前後が目安です。
保険適用外の自由診療となるため、医療機関によって費用が異なります。いずれ人工授精にステップアップすることも考慮し、事前に医療機関のホームページなどでチェックしておくと良いでしょう。
ステップ3:体外受精(ART)・顕微授精
体外授精(ART)や顕微受精ってどんな方法?
体外受精と顕微授精は、卵子を取り出して(採卵)、体外で卵子と精子を受精させ、受精卵を子宮へ戻す方法です。
体外受精では、シャーレ上の培養液の中に卵子と精子を共存させ、自然に受精するのを待ちます。卵子の周りに精子をふりかけるので、精子が泳ぐ距離はほとんどありません。
さらに顕微受精では、精子を1つだけ細い針に入れ、顕微鏡で確認しながら卵子に直接注入します。顕微受精では精子が泳ぐ必要はありません。
体外授精や顕微受精の対象となる人は?
体外受精は次のような場合に選択されます。
□ 一定回数の人工授精で妊娠に至らなかった場合
□ 精液所見に問題がある場合
□ 卵管の閉塞など、卵管障害の場合
□ 子宮内膜症の場合
体外受精は、体外で受精した受精卵を子宮内に戻して着床させるため、精子や受精卵が卵管を通り抜ける必要がありません。そのため、卵管が閉塞していたり狭くなっているなど、卵管に障害がある場合に有効です。
体外受精を行なっても、精子と卵子の受精が成立しなかった場合は、顕微受精を実施します。また精子の運動能力がない場合や、精子の数が非常に少ない場合、もしくは清掃の精子を用いる場合にも、顕微受精が選択されます。
体外授精や顕微受精にかかる費用は?
体外受精や顕微受精の費用は、50万円前後が目安です。顕微受精の方が特殊な技術の器具を用いるため、高額になります。どちらも保険適用外の自由診療で、医療機関ごとに費用が異なります。
また、体外受精や顕微受精には、自治体の助成制度が適用されます。助成対象の条件や金額は自治体ごとに異なります。体外受精は費用負担も大きくなるため、必ず助成制度はチェックするようにしましょう。
自治体の助成制度については「不妊治療の助成金|費用を抑えるための5つのチェックポイント」を参照してください。
まとめ ~ 自分たちに合った不妊治療選択を ~
不妊治療は、タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精の順でステップアップしながら行われます。ただし排卵していない場合は排卵誘発剤を使ったり、年齢によっては体外受精したりする方法が優先されることがあります。
夫婦の状況に合った不妊治療を受けることが、妊娠への近道です。また体外受精などには、まとまった費用がかかるため、費用も念頭に置いた上で計画的に治療を進めていくと良いでしょう。
まずは夫婦で不妊検査を受け、自分たちに最適な治療方法を選択できるようにしてください。
スグケア編集部 2019/03/15