男性不妊の原因|妊娠しない理由の約50%は男性側にあった
この記事の監修医師
小堀 善友先生
獨協医科大学埼玉医療センター リプロダクションセンター副センター長・准教授
日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本性機能学会専門医、日本泌尿器内視鏡学会認定医。
専門分野は男性不妊症・性機能障害・性感染症で、男性不妊症や前立腺肥大症、前立腺癌の治療及び手術に多数携わっているほか、不妊症治療への啓発等にも積極的に取り組んでいる。
なかなか妊娠しない場合、不妊の原因は女性にあるものと思っている方は多いのではないでしょうか。
しかし実際は、不妊症の約50%は男性側に原因があることが分かっています。WHO(世界保健機構)の発表によると、不妊症の原因は「女性側のみ41%、男性側のみ24%・男女両方24%、原因不明11%」となっており、不妊の原因の約半数は男性にあるといえます。
しかしこの事実はまだあまり知られておらず、プライドや羞恥心、忙しさなどから、不妊検査を受けたがらない男性も多いです。
不妊治療を効率的に進め、妊娠の確率を上げるためにも、男性も早めに検査を受け不妊の原因を調べることが大切です。そこで今回は、男性不妊の主な原因についてご紹介します。
男性不妊の3つの主な原因
男性不妊の主な原因は、次の3つです。
1. 造精機能障害(精子が数ない、動きが悪い
2. 閉塞性精路障害(精子の通り道がふさがっている)
3. 性機能障害(うまく勃起、射精できない)
2014年にの調査によると、国内の男性不妊症外来を受診した患者さん7,253人のうち、82.6%(5,991人)もが「造精機能障害」であることが分かりました。
不妊原因の大部分である「造精機能障害」は精液検査でなければ診断できないため、いかに検査が重要か分かっていただけると思います。
それでは、男性不妊の主な原因3つについて、それぞれ詳しく解説していきます。
1. 造精機能障害
造精機能障害は、精子を作る機能に問題が起こることで、質の良い精子を作れなくなり不妊症につながります。具体的には、「精子の数が少ない(乏精子症)」「精液中に精子が無い(無精子症)」「精子の運動性が低い(精子無力症)」「精子の奇形率が多い」などの状態です。
世界保健機構(WHO)の発表によると、精液量1.5ml以上、かつ精子濃度1,500万/ml、かつ精子運動率40%以上でなければ、自然妊娠が難しいとされています。
ただし造精機能障害の場合、その原因を突き止め、改善することで妊娠につなげられる可能性があります。男性も早めに不妊検査(精液検査)を行い、精子の状態を確認し、問題がある場合は早めに対処していきましょう。(医療機関への受診が不安な方は、自宅でできる精子の簡易チェックキットもおすすめです)
造精機能障害の主な原因は次のとおりです。
【精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)】
精索静脈瘤は、本来精巣から心臓へと戻る血液が逆流することで、精巣と精索の周りに「血管のこぶ」ができる症状です。精索静脈瘤ができると、血流が悪くなり精巣の温度が上がります。精子は熱に弱いため造精機能が低下すると考えられています。また、静脈瘤により、精巣に老化のストレスがかかることがわかっています。
精索静脈瘤は、一般男性の約15~20%に見られ、造精機能障害の原因の30%ほどを占めています。
精索静脈瘤は、半分以上は手術によって改善が期待できます。陰のうの周りの血管が気になる人は一度泌尿器科で診察してもらってください。
【精巣炎(睾丸炎)】
精巣炎は、細菌やウイルスが精巣に感染して炎症を引き起こす病気で、無精子症になるリスクが高まります。おたふく風邪や扁桃炎、蓄膿症などにかかると、その後に精巣炎が起こることがあります。
【無精子症】
無精子症は、精液中に精子が全く含まれない状態ですが、手術により精巣内の精子を採取できれば、顕微授精をすることにより、子供を持てる可能性があります。
【染色体異常、遺伝子異常】
染色体や遺伝子などに先天的な問題がある場合、重度の乏精子症や無精子症を引き起こすことがあります。
【脳下垂体の異常】
脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモンや黄体化ホルモンが十分に働かないと、精子がうまく作られず造精機能障害の原因になります。
2. 閉塞性精路障害
閉塞性精路障害は、精子の通り道がふさがることで、精巣で精子が作られているのに精液中に精子が含まれなくなる状態です。精子の通り道である精管が性感染症によって詰まったり、生まれつき精管がなかったりすることが原因です。
精管をつなぎなおす治療法がありますが、精巣の中にある精子を採取して顕微授精を行うことになる可能性が高いとされています。
3. 性機能障害
性機能障害は、セックスに関わる機能に問題が起こり、射精に至らない状態です。うまく勃起できない勃起障害や、マスターベーションでの射精は可能であるのに膣内で射精できない膣内射精障害があります。
勃起障害は、PDE5阻害薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)という薬で改善が期待できます。膣内射精障害は幼少期からのマスターベーションの方法の問題や心理的な原因などがあるため、夫婦でカウンセリングを受けることが望ましいとされています。心理的な原因としては、セックスの日を指定されることや、意識して子供を作るためにセックスをすることに対する葛藤などがあげられます。
治療には長い時間がかかることも多く、人工授精などを選択することになるケースもあります。
まとめ 〜早期の不妊検査で、男性から取り組む不妊治療へ〜
妊活は女性が主体となりがちですが、実際は不妊症の約50%は男性側にも原因があります。なかなか妊娠しない場合には、夫婦揃って不妊検査を受け、男性も自分の精子の状態を把握するようにしましょう。
男性側に不妊症の原因があったとしても、適切な治療を選択していくことで、妊娠の可能性を上げることができます。また自然妊娠が難しいことが判明した場合には、人工授精や顕微授精なども早期に検討する必要があります。
原因がわからないまま手探りで不妊治療を続けても、精神的につらくなってしまうかもしれません。男性としても精液検査を受けて、子供を持てるようにお互いに寄り添って治療を受けるようにしましょう。
スグケア編集部 2019/02/22